Thrown-away Faded Icon Cap:
Embroidered Design by Nukeme

Thrown-away Faded Icon Cap: Embroidered Design by Nukeme

"ThrowAway Faded Icon Capは色褪せたり、ボロボロになったり、古くなり捨てられてたキャップをイメージしています。

新品のキャップよりも、長年愛されて使われてきた帽子に何故か心惹かれます。スリフトショップでも、ここまで使い込まれる理由があったのだろうと思わせる帽子に目を奪われます。格段普通のスポーツチームのロゴが入った帽子でも、日焼けしながら愛され続けたものには独特の魅力を感じます

かつてとある仕事で30000個くらいキャップをリサーチしていた中で記憶に残った穴の空いたボロボロのキャップをベースにしています。

元々の色からフェードしたような風合いだけではなく、つばの先端には生地が捲れたような独特のダメージが入ります。

この発想にはアメリカ南部での記憶が関係しています。
現地を旅していると、日焼けしたボロボロのキャップを被っている人によく出くわしました。ボロければボロいほどかっこいいという価値観でもあるのか、現地のハンター向けのお店に行くと、わざとボロボロにしてあるキャップが売っていて、ダメージの入ったツリーカモのキャップを被る女性の姿をよく覚えています。

Symbols of Identity: Reflections on Caps

2009年に刊行された『CAP/藤本やすし』という書籍には、様々なキャップとともに、著者の思い出が綴られています。
色の褪せたものや自作のものなどを眺めながらテキストを読んでいると、キャップが持つ記号性に気づきます。
「帽子を被っている人」としての記号、「所属や思想を表明するロゴ」としての記号。

CAP すべてのCAPスタッフへ そしてキャップをかぶるボクのこと。/ 藤本やすし

象徴交換と死 / ジャン・ボードリヤール

記号と言えば、ジャン・ボードリヤール(Jean Baudrillard)の著書『象徴交換と死(Symbolic Exchange and Death)』です。
「象徴交換」とは、物や行為が経済的価値ではなく、象徴的な価値(つまり記号)や社会的意味(こちらも記号)を基盤として交換されるプロセスを指します。ちょっと難しいですね。

つまり、キャップは、ただ頭部を保護する道具としての役割ではなく、そこにどんな記号が描かれているかが重要、ということになるのでしょう。
それは現代において身につけるもの全般に言えることかもしれません。また、この書籍の中で語られる以下のセンテンスも興味深いです。
「近代の消費社会では、死が「タブー」視され、隠蔽される傾向にある」という部分です。

ThrowAway Faded Icon Capは、ある種、死に近づいているものと言えるでしょう。
一つは先述したその加工。ダメージ加工は意図的な時間の早回しで、すなわち死に近づくという行為です。そしてもう一つは、アーティストのNukemeさんによるグリッチ刺繍です。

Threading the Digital World

グリッチ刺繍とは、コンピュータミシン用の刺繍データを書き換え、針の動きに直接グリッチ(誤動作)を起こす作品群のこと。
Nukemeさんは2011年ごろからこの手法で作品を制作していて、インターネットやコンピューターが社会に敷衍する過程で生まれた社会的な文脈を持つ表現であり、ロゴが崩壊していくさまからは「死に近づく感覚」を見てとることができます。

 

 

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グリッチによる針の動きは、完全にはコントロールができないため、予期しない変化が生まれ、そこに偶発的な面白さがあります。

不気味で、どこかシュールで、そしてかわいい。記号を用いた重層的なアプローチは、他にはない芸術的手法です。ThrowAway Faded Icon Capには、彼が手がけたアートワークが採用されています。
「死」とか「記号」とか、難しい話をしましたが、特に気にせず気楽に被ってみてください。